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<第2回>ワークショップ「ミュージアムグッズヒットの秘訣:愛される商品開発は何が違うのか?」開催レポート(後編)

2022年10月14日、第2回ワークショップ「ミュージアムグッズヒットの秘訣:愛される商品開発は何が違うのか?」がオンラインにて開催されました。前編に引き続き、ミュージアムグッズ愛好家の大澤夏美さんと話題のグッズを手がける博物館の方に登壇いただき、人気商品の発表や愛される商品を開発する秘訣についてディスカッションを行いました。

大澤夏美さんプロフィール
1987年生まれの北海道出身。札幌市立大学でメディアデザインを専攻、在学中に博物館学に興味を持ち、卒業制作にミュージアムグッズを選択する。その後、北海道大学大学院の文学研究科に進み、博物館経営論の観点からミュージアムグッズの研究に取り組む。会社員を経て、現在はミュージアムグッズ愛好家として活動している。

登壇者によるミュージアムグッズの紹介とディスカッション

もりおか歴史文化館(学芸員・小西治子さん)

「もりおか歴史文化館」

小西さん 当館は、岩手県の県庁所在地である盛岡市の中心地に2011年に開館した施設です。盛岡藩主・南部家の史料の展示が中心になっています。

・イワテノホウゲンTシャツ「おもさげながんす」
当館で一番売れているグッズです。地域全体の財産である「盛岡弁」を全国に発信するために作りました。浅田次郎の小説「壬生義士伝」の主役の吉村貫一郎がよく使う「おもさげながんす」が、盛岡弁として多くの人に耳なじみがあると思い、こちらの言葉を使いました。

イワテノホウゲンTシャツ「おもさげながんす」
(平成27年度販売開始 販売価格:1540円)

・雉子頭雌雄御太刀拵手ぬぐい
盛岡藩主南部家に伝わる「雉子頭雌雄御太刀拵」(岩手県指定文化財)をモチーフにした手ぬぐいです。刀の柄頭に、雄と雌の雉の頭がかたどってあります。インパクトの割に知名度がなかったので、「この可愛いさを広めたい!」という想いで作りました。

「雉子頭雌雄御太刀拵手ぬぐい」
(平成27年度販売開始 販売価格:1100円)
モチーフとなった展示品
「雉子頭雌雄御太刀拵」(岩手県指定文化財)
「雉子頭雌雄御太刀拵手ぬぐい」デザイン

・殿さま一筆箋 一筆啓上致し候
個性豊かな歴代の盛岡藩主たちをそれぞれ知っていただき、親しみを感じてもらうために作った一筆箋です。お殿さまにそれぞれキャッチフレーズをつけ、一目でその功績や特徴が分かるように工夫しました。

「殿さま一筆箋 一筆啓上致し候」
(平成29年度販売開始 販売価格:220円)
学芸員が発明したオリジナルグッズ

・河童Tシャツ・トートバッグ
当館収蔵史料「水虎之図」の河童たちをモチーフにしました。トートバッグは、地元の染物屋さんにオリジナルの反物を一から仕立ててもらっています。SNSでの告知をきっかけに、遠方からも多数お問い合わせいただいているグッズです。

「河童Tシャツ(抱きつき)」
(令和元年度販売開始 販売価格:5830円)
「河童トートバッグ(抱きつき)」
(令和元年度販売開始 販売価格:3500円)

・オリジナル鉛筆
開館10周年を記念して作りました。銘に、南部家で代々大切にされている伝説の和歌を入れています。多くの博物館では、館内でメモを取る際、鉛筆の使用を推奨していると思いますので、そのことを周知するきっかけにもなってほしいと思いました。

「オリジナル鉛筆」
(令和3年度販売開始 販売価格:330円)

大澤さん 学芸員さんたちが自分の館の史料に惚れ込んで、「この良さを伝えたい!」という想いのもとでグッズを作っているところが素敵ですよね。博物館によっては、「うちの収蔵品は地味だから」「華がないから」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、こちらのグッズに勇気をもらってほしいと思います。

「殿さま一筆箋 一筆啓上致し候」は、かぶとの部分の装飾がすごく細かいので、大変だったろうと思いますが、これはどちらの企業に作っていただいたのでしょうか?

小西さん これは、社会福祉法人自立更生会北上アビリティセンターにお願いしています。かぶとの細かい装飾の切り抜きは、普通の企業では対応できないということで、その技術を持つところをご紹介いただきました。地元の企業と連携して作ることができたグッズでもあります。

大澤さん 先ほどの堺市博物館さんもそうでしたが、学芸員さんの「ここを見てほしい」とか「ここがすごく面白い!」という熱意をグッズで表現した結果が、売上につながっていくことが多いです。河童のトートバッグも、既存のバッグにプリントするのではなく、反物からこだわって作ったということですよね。

小西さん そうですね。普通のデザインでは面白くないので、腕全体に河童が抱きついて見えるようにしたいと思いました。

大澤さん そのこだわりを表現できる企業を地元で探して、手を組まれた行動力もすごいですね。

小西さん ありがとうございます。予算との兼ね合いもありますが、できる限り地元の企業とつながって作りたいと思っています。


古代オリエント博物館(教育担当・高見さん、総務部・河瀬さん)

「古代オリエント博物館」

高見さん 当館は、1978年に開館した、日本で最初の古代オリエント専門館です。展示室が約650平米という小さなミュージアムですが、当館の専門性に結びついたオリジナルグッズの開発に取り組んでいます。

・オリジナル手ぬぐい オリエントの地図と遺跡
古代オリエントの地理的情報と遺跡を親しみやすく伝えるグッズとして開発しました。この手ぬぐいは、館内にある6つの遺跡スタンプを押すことができる仕様になっています。(※現在は特別展開催の関係で実施せず)館内をまわって、楽しみながらスタンプを押し、オリジナルの手ぬぐいに仕立てられる面白さがあります。

「オリジナル手ぬぐい オリエントの地図と遺跡」
(令和3年度販売開始 販売価格:1200円)
スタンプを展示室に置くことで、グッズと展示の関連性がより伝わるよう工夫した。

・ミュージアムノート
常設展を見たときに発見したことや思い出を記録して、自分だけの記録ノートにできるグッズです。「展示をどこから見ればいいのか分からない」という方も多いので、展示の分かりやすい解説も記載しています。

「ミュージアムノート」
(令和3年度販売開始 販売価格:900円)
展示テーマ・診断チャート
塗り絵やイラストを書き込める

・粘土板文書一筆箋
古代メソポタミアの粘土板文章をモチーフにした一筆箋で、当館の大ヒット商品です。「文字を書く」という人類の社会を成立させるために必要な要素が、古代から現在まで続いていることを、グッズを通じて感じていただきたいと思いました。

「粘土板文書一筆箋」
(令和元年度夏の特別展 「ギルガメシュと古代オリエントの英雄たち」に合わせて制作)
(販売価格 550円)

・ころころスタンプボールペン
古代メソポタミアでは「円筒印章」という、粘土板の上を転がして押す判子が生み出されました。「転がす」という行為をコロコロスタンプを使って追体験することで、史料への理解を深めていただきたいと考えました。

「ころころスタンプボールペン」
(令和元年度夏の特別展 「ギルガメシュと古代オリエントの英雄たち」に合わせて制作)
(販売価格:440円)
モチーフとなった展示品
「円筒印章 動物文(SSC004)」


大澤さん ありがとうございます。まさに、ミュージアムグッズが博物館教育においても一役買っている事例を見せていただきました。古代オリエント博物館さんの特徴は、やはり教育担当の高見さんが制作に関わっていらっしゃることですね。

高見さん 博物館は、来館者自身が想像力を広げて、新しい価値や新しい世界に出会うことができる場所です。グッズを開発するときには、博物館での体験をよりよく広げるためにどんなものがあればいいか、ということを逆算的に考えています。家にグッズを持ち帰って、「博物館にこんなものがあったよ」と盛り上がることができれば、博物館での体験の学びを深めることにもつながりますね。

大澤さん 専門家である研究員の方も、ミュージアムグッズの開発に関わっていらっしゃるのですね。

高見さん 研究員もみんなミュージアムグッズが好きなので、グッズのワクワク感や楽しみ方に非常に理解があるんですよ。グッズを作るときは、必ず彼らの意見も聞いています。また、総務や受付のスタッフにもコメントをもらっています。
正直、予算も人も少ない当館が、「いいね」と言っていただけるグッズを生み出せている背景には、スタッフ全員がグッズへ高い関心を寄せている当館の風土があると感じています。

大澤さん そうですね。ミュージアムの中の風通しの良さが、グッズの魅力に表れているように感じます。例えば、手ぬぐいに描いてあるラクダのコブも、生息地によってヒトコブとフタコブにきちんと描き分けられていますよね。こうした独創性と専門性のバランスの良さが、古代オリエント博物館さんのミュージアムグッズの魅力だと思います。

総括

大澤さん 堺市博物館さんは、大学や他博物館のワークショップとも連携しながら、地域にどんどん開いていく取り組みが印象的でした。今後は、展示室やミュージアムショップも開かれていくということで、さらに新しい可能性が広がっていくのではないでしょうか。

もりおか歴史文化館さんには「史料を信じる力」がありました。「私たちの持っている史料は本当にすごい」「たくさんの人に知ってもらいたい」、その熱い想いが、ミュージアムグッズ制作の原動力になっていくことを感じていただけたと思います。

古代オリエント博物館さんは、古代オリエントへの興味を喚起していくために積極的にミュージアムグッズを活用していらっしゃいました。教育普及とも連携し、研究員さん、総務の方、受付の方が一丸となってグッズ作りに取り組む姿勢が素敵でしたね。

3館のみなさんの取り組みは、参加していただいたみなさんの今後のミュージアムグッズ制作の参考になったと思います。本当にありがとうございました。

<参考>
・もりおか歴史文化館 https://www.morireki.jp/
・古代オリエント博物館 https://aom-tokyo.com/