長野駅から県立美術館への小旅行
新幹線で長野駅に降り立って、最近リニューアルしたばかりの長野県立美術館に向かう。徒歩で30分、タクシーで9分、バスだと善光寺北バス停まで11分で徒歩2分、長野電鉄だと善光寺下駅まで4分で徒歩12分とGoogleマップが教えてくれる。私は迷わず長野電鉄+徒歩を選択した。鉄道マニアではないのだが鉄道は好きだ。プチ鉄。移動手段としてバスより電車を選ぶし、空港より駅を選ぶ。歩くのは苦にならない。
長野電鉄の長野駅は地下駅であった。券売機で切符を買ってそそくさと改札(自動改札ではなくて駅員さんが切符に改札スタンプを押す)を通ろうとすると駅員さんに止められた。ホームには椅子もないから次の電車が来るまで入構せずに留まるようにとのことだった。
そう言われて、時刻表を確認して驚いた。どうやら電車はさきほど出たばかりで次の電車は30分後。地方でばかり仕事をしているので運行頻度が少ないことには慣れているが、ここが「長野駅」だということで油断をしたようだ。
確かに改札前はちょっとした地下広場になっていて、椅子がたくさん並んでいる。指示のとおりそこに座った。まだ見ぬ地下ホームの姿を想像したりした。椅子も自販機もない、電車の姿もない、コンクリの簡素で清々しいプラットホーム。やがて、30分あれば歩けるな、歩くとするかと立ち上がりかけたときに、目の前の光景にやっと気がついた。
どうして見えてなかったのか、改札前に、野菜などを無造作に積み上げただけの八百屋が開かれていたのである。これはいったい何だろう。道の駅ならぬ駅の駅か。
そうして、ぼんやり眺めていたら、若い駅員さんが改札の向こうの駅員室のようなところから出てきて、商品棚を眺めて、手際良く商品を整えて、また改札の向こうの駅員室のようなところに帰っていった。なんだこの八百屋は長野電鉄の直営ではないかと驚嘆して立ち上がって商品を見ていると、今度はおばちゃんがカボチャをひとつ抱えて...なんと改札に向かって歩いていく。すると私の入構を阻止した駅員さんがバーコードリーダーを手にして会計をした。
長野ではマルチワーク、マルチタスクの時代が早々に実現していたのか。そしてこれが結構売れる。細かい仕組みは分からないが、沿線の農家から電車に乗せて野菜が届けられ、改札前で販売しているということなのだろう。何とも懐かしく、温かい。見慣れている人には当たり前の光景だろうけれど旅人は別である。待ち時間は苦もなく過ぎていった。
さて、施設へのアクセスの選択には個人差があると思う。私は鉄道を選択したのだが、実際、仲間のIさんはバスだった。いわゆる二次交通の問題。美術館の人の話では何れのアクセスも課題を抱えていて改善を検討したいとのこと。
確かに、鉄道アクセスの場合、上に書いたように鉄道は申し分なかったが、善光寺下駅からのアクセスは不案内で殺風景であった(それでも勘を働かして階段道へショートカットしたら、突然に視界が開けて美術館と善光寺が望まれ、さすがにランドスケープ美術館と思った)。次はひとつ手前の権堂駅で降りて歩いてみようかと思う。長野駅からも善光寺の参道を歩いてみよう。
博物館や美術館の多くは主要駅から離れて立地している。そのこと自体が問題なのではなく、そのアクセス空間が快適かどうかが問題なのだろう。快適なものにしようとすると、動線を美しく整え、楽しく設えることが必要になる(例えば、駅に沿線の野菜があるなら、駅に沿線のアート作品があってもよいはず)。そして、そこに住まう人々の暮らしの息遣い、つまりは「文化」が感じられることが重要である。
それは、宿泊施設の整備という課題について考えてみても同じことで、結局は面的な文化観光まちづくりの話になる。このとき博物館や美術館がどのような役割を果たせるのか、そのことをじっくりと考えてみたい。
文化観光コーチングチーム「HIRAKU」コーチ
金野幸雄(一般社団法人創造遺産機構 理事・株式会社つぎと 会長)
<プロフィール>
国土計画家・コンセプター / 内閣官房の歴史的資源を活用した観光まちづくり専門家会議構成員として、全国各地の文化観光まちづくりをコーチングした実績を有する。