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徳島のひょうたん島クルーズ

徳島市の中心街をめぐる、小さな船の旅

徳島県徳島市に、知る人ぞ知る周遊船「ひょうたん島クルーズ」があります。乗船時間は20分程度。市の中心街を囲む川を、子どもでも怖くないスピードで、ぐるりとまわります。面白いのは、川面が地上と近いので、ビルや住宅、公園などの街並みが景色となって流れていくこと。前方に目を向けると、徳島市を象徴する眉山の美しい稜線が飛び込んできます。

「ひょうたん島」といわれているのは、新町川や助任川などに囲まれた市の中心街が、そのままひょうたんのようなカタチをしているからなのだそう。なるほど、Googleマップで見てみると、よく分かります。

自然の営みに合わせた運航スタイル

このクルーズ一番の見せ場は、いくつもの橋をくぐり抜ける瞬間。橋の下のすれすれを通るので、「ぶつかるのでは?!」と、ドキドキ、スリル満点です。実際、乗客が頭を下げないと危ないときもあり、そういう場合はゆっくりと徐行します。(河口に近く、干満差が1m以上あるので通れないこともあります。そのときはコースを変更するそうです)

驚いたことに、料金はわずか300円(子ども150円)。燃料代と保険代のみの、完全ボランティアのクルーズです。徳島市の子どもたちは、100円玉を握りしめて乗りに来るのだとか。ボートには屋根がないので、雨ガッパや毛布の用意もあって、近所のおじさんが気軽に乗せてくれるようなあたたかさが、とても心地良かったです。豪華クルーズにはない味わいがありました。

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ごみを拾う「ついで」に始まったボート観光

この「ひょうたん島クルーズ」、もともとは、川のごみを拾うためのボートでした。今は泳ぐ魚が見えるほど澄んでいる新町川ですが、30年前は水面がごみで埋め尽くされていたのだそう。魚も住めない汚れぶりに、近隣住民は川から目を背けていました。このままではいけないと、1990年3月に「新町川を守る会」が発足。「市民の汚した川は市民の手できれいに再生しよう!」と有志10人がボートに乗って、定期的に川のごみ拾いを始めました。

川を愛し、川とともに歩んできた街

その後、川の現状を知ってもらおうと、ボートに街の人を乗せるようになったことが、この「ひょうたん島クルーズ」の始まり。クルーズをはじめてから、新町川が街の人たちの身近な存在にもどり、川を守ろうとする意識が高まりました。水もきれいになり、魚も戻って来たそうです。今では、年間数万人が利用するという人気のレジャースポットに。阿波踊りがある繁忙期には、1日に800人乗せることもあるなど、郷土文化との親和性の高さも感じられます。

ボランティアのみなさんはとても面白く、魅力のある人たちで、いろいろ話を聞かせてくれました。徳島は、「日本の三大暴れ川」といわれる吉野川の氾濫と戦いつつ、肥沃な土という恩恵も与えられてきた地域。川への愛着が強いからこそ、自然とこういう取り組みが生まれたのでしょう。夏季限定の水上タクシーやナイトクルーズ、水辺イベントなども行われ、ひょうたん島クルーズは、さらなる広がりもみせています。

ひょうたん島1

よくある遊覧船のようなガイドがつくことはないので、「ひょうたん島のガイドツアーができたら面白そうだな」とか「途中でカフェなどに立ち寄れる見学ポイントをつくったらいいかも」などのアイデアもふくらみました。

”みんなが守っている川を守りながら、観光にいかしていこう”という機運が生まれているこの地域で、「いつか何か面白いことができたらいいな」と考えながら、新町川を吹き抜ける心地よい風に吹かれていました。

文化観光コーチングチーム「HIRAKU」コーチ
榎本信之(株式会社GK 京都 代表取締役社長)

榎本さん

<プロフィール>
京都市立芸術大学美術学部デザイン課卒業。デザインマネジメントスキルを活用して、事業のデザインコンサルティングを行う。トータルデザインの視点で、様々な領域で事業展開している。

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