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レポート:文化観光拠点施設を中核とした地域における計画推進支援事業シンポジウム

2022年2月25日、「文化観光拠点施設を中核とした地域における計画推進支援事業シンポジウム」がオンラインにて開催されました。コーチングを受けた4つの計画事業者(群馬県立歴史博物館・新潟県十日町市・MOA美術館・徳島県美波町)が、それぞれの認定計画を紹介すると共に、コーチングを受けての感想や、考えたことなどを語り合うパネルディスカッションも行われました。

第1部 活動報告

「コーチング事業を振り返って」
株式会社つぎと 会長 金野 幸雄

第1部では、「チームHIRAKU」を代表し、株式会社つぎと会長・金野幸雄氏より、2021年度のコーチング事業についての概要説明と、活動報告がありました。

金野氏)我々「チームHIRAKU」は、文化庁から委託を受けて、2021年の9月より「文化観光拠点施設を中核とした地域における計画推進事業」においてコーチング支援を担うことになりました。

「チームHIRAKU」は、クリエイティブ集団のネットワークを持つ「クリーク・アンド・リバー社」、歴史建築を活用して地方の面的な開発をする「株式会社つぎと」、アイデアの事業化を行うコンサルティング企業「きづきアーキテクト株式会社」の3社で構成されています。

今年度は、文化観光推進法に基づいて認定した計画地域に関してコーチングによる計画推進支援を実施しました。

コーチング事業を通じ、「地域・拠点がどのような文化を育みたいのか」という上位概念(コンセプト)の必要性と、「地域活性化による文化振興への再投資」(マネタイズ)の重要性が見出されました。

コンセプト設定においては、文化を育む器、文化を実践するサークル活動、文化を載せるリアルプラットフォーム、土地の文化・知恵めぐりという「文化振興の4つの型」があることを見出すことができました。さらに、成果が期待できる事業モデルの例として、DXの推進や発信力の高い商品の造成、ホテルやレストランなどの滞在施設の開発、会員制度の導入などが挙げられました。

また、文化観光の振興やまちづくりにおいては、文化観光拠点施設の果たす役割が非常に重要です。来年度以降も、拠点施設をさらにまちに開き、地域に貢献できるような活動に取り組んでいくことが大切だと考えています。

第2部 パネルディスカッション

第2部は、コーチング支援を受けた4つの計画事業者によるパネルディスカッションが行われました。

群馬県立歴史博物館「イノベーション文化観光拠点計画」
群馬県地域創生部 文化振興課 歴史文化遺産室 室長 佐藤 貴昭 氏

佐藤氏)群馬県立歴史博物館が目指すテーマは、「世界でここだけの博物館」です。国宝「綿貫観音山古墳出土埴輪」や、榛名山の噴火関連遺跡の2つを世界に通用するコンテンツとして位置づけ、デジタル技術を駆使した博物館のイノベーションを進めています。

2022年3月には「デジタル埴輪展示室」を開設予定。(※3/15開設済)古墳時代の暮らしを体験できるVR映像や、埴輪の3D展示などを計画しています。また、歴史博物館を文化観光拠点とし、群馬県のフィールド全体で古墳時代を体験できるような周遊観光の促進も目指しています。

<コーチングを受けて>
現在、VR映像を使った榛名山噴火関連遺跡展示室の整備も進めていますが、没入感のある展示空間をつくるため、最新のデジタル技術をどう使っていくかなどについて、コーチングチームからさまざまなアドバイスをいただきました。今後も、博物館の展示の充実→収入の増加→観光客の増加という、好循環を生み出していきたいと考えています。

十日町市地域計画<とおかまちスノーカントリー ミュージアム~雪の中のARTS&CULTURE~>
十日町市総務部 文化観光推進室 室長補佐 桒原(くわばら)善雄 氏

桒原氏)十日町では、20年前より里山を舞台にした「大地の芸術祭」を開催し、現代アートのまちとしての地位を築いてきました。加えて、日本有数の豪雪地として、雪とともに生活する中で育んできたさまざまな知恵や文化があります。この2つを掛け合わせ、「雪の中のARTS&CULTURE」として、十日町の文化観光を進めています。

持続可能な地域づくりを目指すためには、これまでの物見観光から脱却し、「地域資源を消費する観光から、共感する観光」への切り替えが必要です。例えば、見どころの一つである棚田は、これまで美しい景観としてしか捉えられていませんでした。しかし、この棚田を維持していくためには、水源であるブナ林の管理が欠かせません。地域の人たちが大切に守り継いできた、人と自然が織りなす文化なのです。

今後は、こうした価値をしっかり伝えていくことで、地域のファンを増やし、「旅アト」のフォローにも力を入れ、リピーターやふるさと納税など、その後の消費にもつなげていきたいと考えています。

<コーチングを受けて>
ふるさと納税などで資金面の取り組みはこれまでも行ってきましたが、文化観光へつなげる具体的な打ち手がありませんでした。そこで今回、コーチの方々から指導を受け、カスタマージャーニーマップやESG投資メニューなどを作成できました。資金獲得や人材確保に向けた具体的な道筋と受け皿づくりに取り組むことができたのは、非常に良かったと思っています。

◆参考:文化観光コーチングチーム「HIRAKU」 掲載記事

<MOA美術館を中核にした「国際観光温泉文化都市」をめざす熱海の文化観光を推進する拠点計画> 
MOA美術館 学芸部 部長 矢代 勝也氏

矢代氏)MOA美術館は、主に5つの文化資源を有しています。1つ目は、国宝を中心とした日本・東洋美術の幅広いコレクション。2つ目は、杉本博司氏のデザインによる展示空間や、黄金の茶室などの建築・施設。3つ目は、アルゲリッチや坂東玉三郎など、国内外一流の音楽や芸能公演の実績。4つ目は、美術館から眺める熱海の絶景と、四季折々の庭園の美。5つ目は、館の飲食施設や、鎧塚シェフのカフェで体験できる無形文化遺産「和食」などの食文化です。

これらの文化資源を中心に、拠点施設機能強化事業に取り組んでいます。具体的には、所蔵品を中心とした展覧会、早朝夜間のライトアップ、美術館から熱海の花火を見下ろすプログラム、伊豆地域の仏教美術をネットワーク化した展覧会事業などがあります。

また、文化への理解を深める事業として、デジタル技術を活用したバーチャルリアリティ、多言語化対応した看板の設置、来館外国人の調査なども行っています。

<コーチングを受けて>
今回、コーチングを受けたことで、MOA美術館ならではのプログラムを強化しつつ、これからの時代を担うアーティストを育てたり、自己表現に興味を持っている若年層にアートに触れる機会を増やす、といった取り組みを進め、「来館者のピラミッド」を拡大することの重要性を理解できました。また、それぞれのターゲットに対して、どのような施策を打っていけば効果的か、という考え方も見えてきました。

<美波町の拠点計画について「美波町回帰率向上拠点計画」>
・美波町役場 産業振興課 主査 外礒(とのいそ)千博氏

外礒氏)美波町とウミガメとの関係は、昭和25年にさかのぼります。戦後間もない食糧難の時代に、当地の中学生と先生が、殺されたウミガメを見つけたことから始まった研究がさまざまな分野で注目され、ウミガメとその産卵地が初めて国の天然記念物に指定されました。

今回認定された拠点計画には、「回帰率」という言葉が入っています。私たちとしては、ウミガメはもちろん、来館者のリピート、そしてここで学んだ地域の子どもたちが誇りを持ってまた故郷に帰ってきてほしいという願いを込めて、計画にこの名前を付けました。

昭和60年に建設された「日和佐うみがめ博物館カレッタ」ですが、展示内容のリニュ―アルや多言語化、アニマルウェルビーへの対応など、多くの課題を抱えていました。そこで令和3年度は、博物館の魅力的な展示解説事業や、ウミガメ調査放流事業など、15の機能強化事業を実施。コーチの方々には、このすべての事業に支援していただきました。

<コーチングを受けて>
コーチングをきっかけに、コーチや文化庁の方と直接お話ができて、美波町について深く知っていただけたことが良かったと思います。また、私たちと同じように、博物館で頑張っている方を紹介していただき、伴走いただけたことも良かったです。うちの博物館にも「何かできそうだな」、「やってみようかな」という雰囲気が生まれました。また、美波町のファンをつくるためのアイデアや進め方について、具体的な案をいただいたことで、方向性をまとめることができました。また、地域内外に関係者をつくることの大切さにも気づくことができたと感じています。

◆参考:文化観光コーチングチーム「HIRAKU」 掲載記事

質疑応答・感想など

パネルディスカッションを受けて、それぞれの事業者が感想を語り合いました。

群馬県・佐藤氏)コーチングでは、とても具体的な提案をしていただきました。私たちの理解が追い付かなかったり、疑問に感じていたりする部分があると、専門家の先生を呼んでくださり、アドバイスをいただける場をつくっていただきました。今回は5ヶ月という短い期間でしたが、1年くらいの期間でやっていただけたら、さらに深掘りできたのではないかと思います。私たちは、今回のコーチング支援をかなり有効活用できたと考えています。

十日町市・桒原氏)地域計画をつくる時点では、対面でのやりとりができず、文化庁さんに伝えづらいところもありました。ですが、今回コーチング支援を受けることになり、コーチの方と一緒に文化庁の方にも、十日町の実情をしっかり見ていただく機会ができました。また、私たちだけだと、知識をつけたり、調べたりするのに時間がかかっていたところを、コーチや専門家の方に付いていただけたので、効率よく進められました。来年もぜひ継続したいという想いがあります。

MOA美術館・矢代氏)現場を支える職員たちもコーチングを受けさせていただいたので、今のまちづくりの考え方や、文化観光のあり方について、みんなで一緒に学べたことが一番良かったと思っています。今回は十分に生かしきれなかった取り組みもありますので、来年度は他団体との連携も深めつつ、活動の実態化を図りたいと思っております。

美波町・外礒氏)コーチングを通して、地元の関係者の文化観光に対する熱量が上がったことが良かったですね。だからこそ、もっと時間をかけたかった、という想いはあります。1年間を通じてコーチングを受けることができれば、来年度以降、さらに効果的な取り組みができるのではないかと思っています。

――最後に、金野氏ときづきアーキテクト株式会社代表・長島聡氏から、まとめの言葉がありました。

金野氏)ありがとうございました。とてもポジティブな感想をたくさんいただけて、安心しました。

長島氏)他の事業者の方にも、ぜひお願いしたいことがあります。今回登壇いただいた方々のお話を聞いて、なんとなく「これはうちの拠点でも共通して使えるのではないか?」と思われたところもあったのではないでしょうか。今日のこのシンポジウムをきっかけに、ぜひ仲間作りにも励んでほしいと思っています。

「文化観光」でネット検索していただくと、上位に「認定計画の一覧」(文化観光推進法に基づき認定した拠点計画及び地域計画)が出てきます。それを見ていただいて、「この取り組みは、ちょっと興味深いぞ」というものを見つけたら、声をかけてみてください。文化観光は簡単には正解の出ない大きなチャレンジだと思うので、同じ課題を持つ仲間同士、つながりをつくりながら、一緒に進んでいってほしいと思います。

金野氏)今回のことをきっかけに、仲間がだいぶ増えたかと思います。こういう関係性づくりが、文化観光を成功させるための鍵になると思います。ぜひ一緒に頑張っていきましょう。