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生き物と共に暮らす文化

動物園、博物館など、社会には、様々な生き物やその剥製を展示している施設が存在する。子供たちはそうした施設を訪ねると、初めて見る様々な動物たちやその逞しさや可愛らしさに大きな感動や刺激を受ける。大人も、日常の喧騒から離れて、動物たちと触れ合うと、なんとも言えない優しい気持ちになる。地球には様々な動物たちがいて、一緒に暮らしているのだと改めて感じることができる。

動物園における、展示の創意工夫

20年くらい前だったか、動物たちの生態をもっと深く知ってもらうために、動物園では「行動展示」なる展示の創意工夫が始まった。旭山動物園はその先駆けだ。水中のペンギンを観察できる「360度の水中トンネル」、アザラシの習性を観察できる「マリンウェイ」など、自然に生きる動物たちの「行動」を知ることができる。

旭山動物園には野生動物の住む自然を再現した「共生展示」という展示もあり、同じ生息地にいる動物たちを集めた空間を作っている。クモザルとカピバラが一緒に生活している空間では、互いの存在が適度な刺激となり、互いのQOLが高まるそうだ。

動物園は、言うまでもなく、家族連れに大人気のお出かけスポットだ。小学校や幼稚園の遠足でもよく訪れる場所だ。来訪者の中には、動物たちに夢中になり、繰り返し通い、動物たちを深く理解したり、動物たちの習性を学んだりしている人もいる。動物園では、まず「見る」という行為を通じて、人々が動物たちやその動物たちが暮らす自然への親しみを感じているのだと思う。

博物館は、「見て楽しむ/理解する」を超えるきっかけをくれる

一方、博物館はどうだろうか。博物館では、過去の生き物の剥製や収集した様々な種類の標本が展示されている場合が多いような気がする。もちろん生き物を展示している博物館もある。ただ、その目的が動物園とは少し異なる様に感じる。博物館では、動物たちの姿を見せることを超えて、「動物の保護」、「動物の生態の研究」などの展示を館内で積極的に行っている。

学校や職場での毎日の中で、ついつい忘れてしまいがちな「人以外の生き物の存在」、「そうした生き物と人との関わり」を改めて感じさせてくれる。人を含むたくさんの生き物が織りなす自然の生態系だ。博物館は、「見て楽しむ/理解する」を超えて、「人は生き物と一緒にどう暮らしていくべきか」などを考えるきっかけを与えてくれるのだと思う。

ウミガメの町、徳島県美波町が取り組んでいること

先日、ウミガメの町、徳島県美波町に行ってきた。美波町は、昭和25年に始まった日和佐中学校のウミガメ研究に端を発して、それ以来、町ぐるみでウミガメの保護研究に力を入れてきた。

昭和42年には、ウミガメと卵、その産卵地が国の天然記念物に指定され、昭和60年には、怪我をしたウミガメの保護を目的とした施設「日和佐うみがめ博物館カレッタ」がオープンした。60年以上前から「生き物を大事に見守る」、「生き物と共に暮らす」という日常が続いているという。

以前は、年間100回を超えるアカウミガメの上陸もあったが、この20年はかなり減っているという。今年のウミガメの上陸は8回、産卵は6回だった。そのうち5回は同じカメによる産卵だ。かなり前から、美波町の住民には、カメが減っているという危機感がある。もっと自然を大事にしなければという危機感がある。住民の活動は、「怪我をしたカメを見つけたら保護をする」、これに留まらない。

ずっと以前から町で使うレジ袋を無くす取り組みを行なってきた。網に掛かってしまうカメを無くすために漁師と一緒に網を改良した。海岸線の道路では街路灯を白ではなく、アンバー色に変えてカメに優しい光にした。

海岸線に建つ「白い燈台」というホテルは、名前に「白」とあるにも関わらず、カメを想い、外壁を水色に塗り替えた。産卵期の前には住民総出で大浜海岸の清掃を行っている。山を豊かにすることで、山から水が流れ出す海を豊かにするという活動も試行錯誤を続けている。

小学校では、授業でカメの生態を学ぶ。それを通して、命の大事さを感じて、生き物と共に暮らす心構えを持つという。町の至る所で、その象徴である「カメ」を見かける。カメのマンホール、看板、ロゴ、キャラクター、お土産など様々だ。日々の暮らしの中で、それらが「生き物と共に暮らす」ことの大事さを思い出させてくれる。

また、カメの上陸や産卵を町の住人に知らせる仕組みもある。町の高台にあるお城のライトが点灯するのだ。住民はその知らせを受け取る度に、安堵すると共に、優しい気持ちになれるのだと思う。

「過去から未来へと繋がる文化」を紡いでいく拠点として

現在、「うみがめ博物館カレッタ」は、リニューアルオープンに向けて、計画を練っているという。大ガメプールは、カメがより気持ちよく過ごすことができる様に工夫を凝らす。学芸員などがカメの保護や生態の研究をさらに進めていくと共に、そうした活動を来館者に肌で感じてもらえるように、バックヤードを含めた施設の改修をしていく。

さらに、住民が生き物と共に暮らしてきた「過去から未来へと繋がる文化」を紡いでいく拠点として、深化を果たそうとしている。これまでの保護の歴史を伝えると共に、いま住民が町のあちこちで進めている「生き物と共に暮らす」取り組みを積極的に紹介したいと考えているようだ。博物館の奥行きの深さを感じる。

そういえば、美波町の役場を訪れた時、気づいたことがある。SDGsのバッジを付けている方がとても多いことだ。しかも、ただのバッジではない。SDGsのリングに、顔と手足がついて、カメの形をしているのだ。

美波町へふるさと納税をすると、その感謝の気持ちとして贈られるものだという。なんとも可愛らしく、SDGsへの気持ちを増幅させるパワーを感じる。ぜひ欲しいと思った。

今回は短い滞在だったが、美波町の文化に触れて、その文化を育む住民の方々と話して、「生き物と暮らす文化」を感じることができた。近いうちにまた出向いて、自分なりの行動を起こすきっかけにしてみたいと思う。

※法律上では動物園も博物館の種類のひとつです。

文化観光コーチングチーム「HIRAKU」コーチ
長島聡(きづきアーキテクト株式会社代表)

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<プロフィール>
由紀ホールディングス社外取締役、ファクトリーサイエンティスト協会理事、次世代データマーケティング研究会代表理事、慶應大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授、工学博士。
早稲田大学理工学部助手、ローランド・ベルガー日本代表、同グローバル共同代表を経て、2020年7月、きづきアーキテクトを創業。

・日経COMEMO
https://note.com/kiduki_archi/