<第3回>ワークショップ「地域の人にひらかれたミュージアムをつくろう」開催レポート(前編)
西澤真樹子さん基調講演
私が所属している「NPO法人大阪市自然史センター」は、「大阪市立自然史博物館」と連携し、自然科学の発展と普及に取り組む団体です。これまで、博物館のファンを増やし、博物館を盛り上げるためにさまざまな活動をしてきました。今日は、その取り組みの一部をご紹介します。
①ミュージアムの支え手!友の会会員を増やす取組み
NPO法人大阪自然史センターは、大阪自然史博物館の「友の会」の運営も行っています。ですが、会員数は2000年をピークにどんどん減少しており、「このままでは友の会を続けていけなくなる」という危機感から、友の会の改革に乗り出しました。
まず、会員募集のパンフレットを楽しく分かりやすい内容に変えました。そして、年1回(12月)しかなかった入会の機会を4・6・10 月の4回に増やし、友の会に入りやすくしました。
また、1万円の賛助会員制度と、ワンコイン(100円)寄付制度をつくり、会員更新時に少しでもお金を上乗せしてもらえる仕組みを整えました。さらに、月1回送っている会報の封筒に、マンガとコラムを毎月連載し、手に取ってもらえる工夫もしています。
「友の会秋祭り」「ナイトミュージアム」「ナイトハイク」など、会員向けの楽しいイベントも企画。ミュージアムショップで販売されるバッジのデザインコンテストや、博物館ゆかりのアイテムがもらえるオークションにも挑戦しました。コロナ禍でイベントができないときは、自宅でできる自然観察法を提案するなど、サービスの継続に注力しました。
こんなふうに、楽しいことをコツコツと15年やってきた結果、コアなファンの動きが活性化しました。会員数は、ピーク時に比べると140人ほど減っていますが、賛助会員は10年前の倍に増加し、収入は安定しました。また、コロナ禍で減った会員数も今は回復しており、2021年の同時期より96人増えています(2022年11月現在)。
これは、私たちが次々と楽しいことを繰り出してきた成果だと思っています。会員から、期待と信頼をいただくことができました。
ワンコイン寄付をしてくれる人も増えており、2021年はコロナ禍にありながら143万9094円という過去最高額を記録しました。会員が「こんなときほど博物館を支えなければ」と考えてくれた結果だと思います。
②フェスティバル開催の資金確保!寄付者の支援を形に
博物館では、毎年「大阪自然史フェスティバル」を開催していますが、これには160万~210万円ほどの費用がかかります。昔は企業協賛金と助成金で賄えていましたが、近年は協賛企業も激減。少しでも資金を増やすため、コラボTシャツを作って販売し、開催資金を確保することにしました。
売上自体は19万円というわずかなものでしたが、当日は、来場者も出展者もみんながそのTシャツを着て参加してくれるというムーブメントが起きました。「自然史フェスティバルは自分たちが支えるんだ!」という想いが感じられて、とてもうれしかったですね。
2022年は、3年ぶりにフェスティバルを開催することになりましたが、企業協賛が集まらず、クラウドファンディングに挑戦。100万円以上の寄付をいただくことができました。
③博物館の活動に、地域の人を巻き込む!標本作製サークルの立ち上げ
2003年に、標本作製サークル「なにわホネホネ団」を作りました。
これは、博物館の標本作りをお手伝いするサークルです。私が博物館でアルバイトをしていたとき、学芸員さんから標本づくりを教えてもらっていましたが、「せっかくならみんなでこれをやりたい」と考えたのです。動物が見られるし、勉強になるし、博物館も助かる。そう考えてサークルを立ち上げることにしました。
年齢、性別、職業は、まったく問いません。サークルなので子どもが一人で来てもOK。そうやって、広く門戸を開いているとどんどん人が増えて、今は443人になりました。たぶん、世界で一番大きい標本作成サークルです。「自然史博物館はハードルが高いけど、ホネホネ団は面白そうだから来た」という人もいました。
また、みんなで作った骨格標本を自然史フェスティバルでお披露目したこともあります。来場者から「これどうやって作ったんですか?」とか「すごいですね!」といってもらえるので、みんなのモチベーションが上がりますし、その場で新しい団員さんも勧誘できるメリットもありました。
③参加者1万人超え「ホネホネサミット」の開催
2009年には、「ホネホネサミット」もスタートしました。ホネに興味のある人、ホネの標本づくりに関わっている人が交流するイベントです。全国で標本づくりをしている人たちが集まって自分たちの技術を伝え合えたらいいなと思って企画しました。
初回は8,800人、第2回は1万人以上の来場者がありました。プロの標本士が行う標本のデモンストレーションは、立ち見が出るほど大入り満員に。さらに、高知や北海道の団体さんから「自分のところでもサミットをやりたい」という動きも生まれました。
ホネホネサミットが成功した背景には、博物館の学芸員さんたちの支えがありました。私たちの活動をおおらかに受け止めて、見守りとサポートに徹してくれました。みなさんにも、ぜひそういう雰囲気をつくっていただけたらと思います。
④まとめ(地域の人を文化の担い手に)
文化観光でいわれる「文化の担い手」とは、どういう人でしょうか? 私は「うっかり『ミュージアム沼』にはまってしまった人」だと思っています。
たまたまミュージアムに来たら、ちょっと楽しくなって、気づいたらファンになっていた…そんな人が、今、私たちと一緒に活動してくれています。そして私たちミュージアムは、そんなビギナーさんを「どうやって沼にはめるか」考えていくことが求められているのだと思います。
ミュージアムによる取り組みの紹介
はじまりの美術館(館長・岡部さん、学芸員・大政さん)
大政さん はじまりの美術館は、2014年6月に福島県耶麻郡猪苗代町(やまぐん いなわしろまち)に開館した、小さな美術館です。運営母体は、社会福祉法人安積(あさか)愛育園。主に知的や発達に障害のある方を支援している法人になります。
この美術館は、「人の表現が持つ力」や「人のつながりから生まれる豊かさ」を大切に考え、誰もが集える場所として開設されました。企画展と常設展のほか、カフェの運営、作品のアーカイブ、マルシェなどのイベントの企画や、障害のある方の表現活動の相談や研修などの支援センター事業を行っています。
住民と一緒に、美術館を拠点に地域を盛り上げる
館内には、ohaco café(オハコカフェ)というカフェ兼ワークショップスペースがあり、トークイベントや上映会、ワークショップなど、さまざまなイベントを実施しています。そして、ここでは、当美術館にとってなくてはならない「寄り合い」が行われています。寄り合いは、地域の方と一緒に取り組んでいる、美術館づくりの活動です。
岡部さん 私たちは開館前から、美術館という場所を地域に活かしてもらうための方法を模索していました。そこで、まずは町の方とお話をする町民ワークショップを開いたんです。これが「寄り合い」のはじまりです。
そこで、「美術館でどんなことをしてみたいか」「この町をどういうふうにしていきたいか」などのアイデアを出し合ってもらい、熱く話し合いました。
寄り合いの参加者は、地域に住む子どもから大人まで、年齢も性別もバラバラです。美術館のスタッフも混ざり、月に一回ほど集まって意見交換をしてきました。
地域の人とのつながりが、文化的な価値を生む
はじまりの美術館開館後には例えば、町民が本当におすすめしたい場所を紹介する「あいばせマップ」をつくりました。「あいばせ」とは「一緒に行ってみよう」という意味のこの地域の方言です。執筆、編集、デザイン、イラスト、全て寄り合いのメンバーで分担してつくっています。
大政さん また、猪苗代の食文化をキーワードにした「いなわしろ食かるた」の制作も行いました。読み札は公募で募り、絵札にもみんなで色を付けました。このかるたは、町内の学校に配布され、猪苗代町のふるさと納税返礼品にも採択されました。道の駅や美術館のオンラインショップでも販売しています。
岡部さん 寄り合いは、はじまりの美術館の大切な一部です。みんなでアイデアを出しながら、一緒に手を動かして、美術館をつくりあげています。ボランティアでもサポーターでもなく、「楽しいから参加している」という人たちが集まってくれました。この美術館を、「ここに来れば誰かがいる」と安心できるような、ゆるやかに人とつながれる場所にしていきたいと思っています。
地域にひらく活動をゼロからはじめるには?
西澤さん ありがとうございます。ゼロから美術館を立ち上げて、最初に協力者を集めるのはすごく難しいことだったと思いますが、寄り合いをつくる前は、どんな人に会いに行かれたのですか?
岡部さん 最初は地域活動のキーパーソンになっている方や、地元で商売をされている方、面白そうな活動をしている人に会いに行きましたね。そして「どういう活動・ご商売をされていますか?」とか「美術館をつくりたいのですが、何かご一緒できることはないですか?」など、ヒアリングをしながら10人くらいまわりました。寄り合いは、その方々を中心に声をかけてスタートしています。
西澤さん ゼロから活動を始めるときは、地域ネットワークの中心にいる方が必要ですが、その方を見つけるまでがたいへんですよね。でも見つかれば、そこから連鎖反応が起きていきますね。
岡部さん そうですね。こちらがやりたいことを言うよりも、その方が何をやっているかを聞くことが大事だと思います。そうすると、自分の活動からイメージを膨らませてくれますから。
美術館というと、固定的な見られ方もされますが、私たちの活動を知ると分かるように、美術に限定したことだけをやりたいわけではありません。何か楽しみが生まれて、誰かと誰かをつなげることができればいいなと。そういうイメージは、寄り合いから広がっていったと思います。
大政さん スタッフが「自分ごと」として楽しんでいると、地域のみなさんも楽しんでくれます。それと、顔の見える関係性でつながることも大事だと思います。(後編につづく)