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<第1回>ワークショップ「館の魅力を形に!ミュージアムグッズを磨き上げよう」開催レポート

2022年9月16日、ワークショップ「館の魅力を形に!ミュージアムグッズを磨き上げよう」がオンラインにて開催されました。ゲストは雑誌やメディアで活躍中のミュージアムグッズ愛好家、大澤夏美さん。ミュージアムグッズの開発に取り組む計画事業者と共に、話題のミュージアムグッズや商品開発のポイントなどについて話し合いました。


大澤夏美さんプロフィール
1987年生まれの北海道出身。札幌市立大学でメディアデザインを専攻、在学中に博物館学に興味を持ち、卒業制作にミュージアムグッズを選択する。その後、北海道大学大学院の文学研究科に進み、博物館経営論の観点からミュージアムグッズの研究に取り組む。会社員を経て、現在はミュージアムグッズ愛好家として活動している。

大澤夏美さんご挨拶

大澤さん 本日はみなさんとお話できることをとても楽しみにしてきました。「ミュージアムショップの成功は、ショップの数だけある」というのが私の考えです。これが正解というものはないので、みなさんとお話をしながら、「素敵なミュージアムショップをつくりたい」というモチベーションをつくる場にしたいと思っています。

計画事業者によるパネルディスカッション~ミュージアムグッズの現状について~

福島県立博物館(学芸員・小林めぐみさん)

福島県立博物館

小林さん 福島県立博物館では、会津を代表する「会津の武家文化」「若松城下の商工文化」「雪国のくらしとものづくり文化」という3つの文化を楽しんでもらうことを目指し、現在「三の丸からプロジェクト」を進めています。

博物館のバリアフリー化、ものづくりマルシェの開催、ティールームの改装など、さまざまなアップデートを実施。特にティールームは、「食」を通して会津のものづくりを体感できる場として生まれ変わりました。会津漆器の工程見本を展示し、会津木綿を使った椅子で、会津漆器に盛り付けたメニューを楽しめる空間になっています。

福島県立博物館:ティールーム
会津のものづくりを体感できる場

一方で、博物館のショップはスペースが狭く、昔ながらの博物館の売店といった感じの少し寂しい雰囲気です。扱っている商品は、県立博物館発行の書籍、クリアファイル、はがき、一筆箋など。過去には企画展と連動してつくったオリジナルの野帳なども販売していました。

今後のミュージアムグッズにおける当館の目標は2つあります。先ほどご紹介したティールームで、会津のものづくりや、食に関わるものを販売すること。そして、当館オリジナルのミュージアムグッズをつくることです。今はまだスタートラインに立ったばかりですが、先日もコーチのみなさんに、ミュージアムグッズの企画に関するワークショップを開催していただきました。

三の丸からプロジェクトで
会津のものづくりに触れられる空間として整備したレストランを紹介する学芸員さん

大澤さん ありがとうございます。漆器の工程見本が飾ってあるなど、ティールームがしっかり学びの場になっていることが素敵だなと思います。

世田谷にある「長谷川町子美術館」も、ミュージアムとティールームを連動した取り組みをしています。長谷川町子が好きだったドライパパイアやほうじ茶をティールームで味わうことができ、それらを買って帰ることもできます。ほうじ茶のパッケージには、新聞連載時の茶柱のシーンのコマが入っていて、とても素敵なんです。

中でも、私がすごく好きな商品は、ティールームでも使用されている「サザエさん 昭和の道具紙ナプキン」です。サザエさんの漫画で使われていた道具が印刷されていて、いつの新聞に出ていた道具か分かるように「昭和〇〇年」という年代も印字されています。

長谷川町子は、戦前から戦後にわたって人々の暮らしに寄り添ってきた道具の移り変わりを描いてきました。これらのグッズは、学芸員さんたちが「サザエさんが描いてきたもの」の本質を見抜いているからこそできあがった商品です。「ミュージアムグッズは、ミュージアムの本質を映し出す一つのメディアだ」ということが、すごく伝わってくる事例ですね。

小林さん ありがとうございます。おっしゃっていただいたように、まさに、ミュージアムグッズはミュージアムの本質を映し出すメディアだと思います。そこを大事にしていくことで、その館らしいグッズが生み出されてくるのだろうと思いました。

横浜開港資料館(学芸員・羽毛田智幸さん)

羽毛田さん 横浜開港資料館は、ペリー来航時の横浜や横浜開港にまつわる多くの資料を収集している施設です。「横浜浮世絵」や貴重な写真などもたくさん所蔵されており、閲覧室にて実物をご覧いただけます。

横浜開港資料館
〈複製画〉額絵・ハイネ画「ぺリー提督横浜上陸の図」

旧館は、昭和6年にできたイギリスの元総領事館です。非常に趣のある建物で、横浜の歴史的な風景の象徴として多くの方に親しまれています。

ミュージアムグッズに関しては、収蔵している資料を素材とした商品を展開しています。横浜の絵地図のクリアファイルや「横浜浮世絵」などを使ったステーショナリー系が中心です。

Wポケットクリアファイル(横浜真景一覧)
ハンドタオル

しかし、販売の専用スペースはなく、入館のカウンターがショップを兼ねています。オンラインショップもありますが、スペースの都合上、どうしても小さなものや小物類が中心の商品展開に。そこで、喫茶室だった場所にミュージアムショップを移設する計画を進めています。

スペースが広くなれば、今まで扱えなかったような商品も並べることができます。開港資料館のまわりには、モノづくりをされている企業さんも多いので、地域の方々とも手を組んで、今後の商品開発を進められたらいいなと考えています。

大澤さん クリアファイルが素敵で、私も欲しくなってしまいました。今回は、横浜開港資料館さんの参考になりそうな事例として、石川県の「前田土佐守家資料館」で販売している「鷹羽毛部位図解絵図」のクリアファイルをお持ちしました。

これは、加賀市伝来の「鷹羽毛部位図解絵図」を素材につくられたファイルで、裏のQRコードからはデジタルアーカイブにアクセスできるようになっています。グッズから元の資料にきちんとつながれる仕組みをつくっているところが面白いですよね。

前田土佐守家資料館の方は、「博物館の資料をもっとクリエイターさんたちに活用してほしい」とおっしゃっていました。横浜にも素敵なものづくりをされているクリエイターさんがたくさんいらっしゃると思いますので、そういう方とつながることができたら、今後の商品展開の可能性が広がりそうですね。

羽毛田さん ちょうど新しい店舗のオープンに向けて、横浜在学でデザインを専攻している学生さんに、館内の資料や素材を活用したものづくりをしてもらえる場を計画しています。また、それを製品化できる企業もたくさんありますので、デザインする人と、商品化してくれる会社をつなぐこともできるといいなと思っています。

大澤さん いいですね。岐阜県の「岐阜県美術館」では、ショッパー(買い物袋)のデザインを市民の方と一緒にされていました。商品の開発はむずかしくても、ラッピングのデザインや内装のアイデアで、地域の方にお店づくりに関わってもらう方法もありますよね。例えば、「私たちにとっての横浜」というテーマでコンテスト形式にして、ショッパーのデザインのアイデアを募集してしまうのも一つの手だと思います。

横浜の人たちは地域に誇りを持っていらっしゃるし、歴史の積み重ねもあるので、そういったものをミュージアムグッズに反映できたらいいですよね。また、今は文房具業界がすごく盛り上がっていますので、浮世絵や図面などの素材を活用できるのも、大きなチャンスです。

石川県 県民文化スポーツ部 文化振興課(金田直樹さん)

金田さん 私たちは地域計画で「兼六園周辺文化の森地域計画」を進めています。兼六園の周辺には、県立美術館や東京から移転した国立工芸館、有名な金沢21世紀美術館などの文化施設が集積していますが、今回お話したいのは「石川四高記念文化交流館」のミュージアムグッズについてです。

石川四高記念文化交流館
門衛所

ここは、もともと明治に建てられた「旧第四高等学校」の校舎でした。中には7㎡ほどの簡単なショップがありますが、移転を計画中です。明治26年に建てられ、かつて四高の門衛所として使われた24㎡の建物に移りますので、新しいグッズもつくりたいと考えています。

ミュージアムショップ
北極星をかたどった四高の校章が入ったビニール傘

現在のミュージアムショップには、図録とクリアファイル、絵葉書、詩集と紀要が置いてある程度です。また、北極星をかたどった四高の校章が入ったビニール傘もあります。金沢は「弁当を忘れても傘を忘れるな」という格言があるくらい雨の多い地域なので、傘の需要はありそうだと考えました。

また、四高生が使っていた物理化学実験器具が大量に残っているのですが、明治時代ならではの不思議で魅力的なデザインのものが多数あります。こういったものをポストカードにしたらどうか、というアイデアも出ています。

さらに、石川県立図書館では石川県にまつわる多彩な資料をデジタルアーカイブとして公開しており、明治期の漆器のデザイン図案などがそのまま商業利用できます。これを活用して、デザイナーさんにトートバッグやハンカチなどのデザインをしてもらうことも考えています。

しかし、こうしたグッズを企画したところで、「売れるのか?」と言われてしまうと、胸を張って言い切れる自信はありません…(笑)。そこで「こういうものなら売れる!」というお話を聞かせていただければ、非常にありがたいです。

大澤さん 貴重な財産だらけですね!「売れるのか?」というお話の前に、まずは「何のためにミュージアムグッズをつくるのか」を周囲のみなさんと共有することが大事かなと思います。

「ミュージアムを盛り上げたい」「文化を伝えるための手段」など、ミュージアムグッズをつくる目的はさまざまですよね。また、何を持って「売れる」とするかもそれぞれだと思います。例えば、「在庫を抱えたくない」なのか「ヒット商品にしたい」なのか…。ミュージアムグッズで大きな利益を出すことはむずかしいかもしれませんが、波及効果は小さくありません。大事なのは、どこに価値を設定するか、です。

そこを明らかにできれば、今後のコーチングの場でも「そのためにやるべきこと」という視点から情報共有ができます。そういう意味でも、学芸員さんを始め、まわりのいろいろな立場の方とお話をして、コミュニティをつくっていくことも必要だと思います。

先ほどのビニール傘のお話などは非常に面白かったです!雨が多い金沢ならではの文化を知ることができました。ミュージアムグッズとの出会いは、こういう新しい価値を発見するきっかけにもなるんですよね。

群馬県 地域創生部 文化振興課(新井淳也さん)

群馬県立歴史博物館

新井さん 私たちが進める「群馬県立歴史博物館イノベーション文化観光拠点計画」では「埴輪」を文化観光の大きな柱としています。群馬県は、古代の埴輪や古墳が非常にたくさん見つかっている地域。埴輪は見た目がキャッチーで、可愛いものもありますので、「HANI」というロゴをつくり、商標登録して商品展開しています。

代表的なものは、「HANI-珈琲」「HANI-バウム」「HANI-ケース」「HANI-ストール」「HANI INK (ハニインク)」など。中でもクッキー製の埴輪のパーツを発掘して、チョコペンで補修して食べる「HANI-お菓子」は、メディアなどでも紹介されている人気商品なので、ご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。埴輪はそのままの形で発掘されると思われがちですが、だいたいは割れて出てきますので、それを知ってもらうきっかけにもなっています。

「HANI お菓子」

これらの商品は、すべて地元の企業さんとコラボしてつくっていますが、我々が資金を出したり、委託したりしているわけではありません。基本的には、企画・製造はすべて企業さん自身が行っており、売上もすべて企業さんのものになります。

HANIグッズは、埴輪文化を広め、群馬と埴輪の結びつきを知ってもらうことを目的に展開していますが、今後はマネタイズの部分にも注力していきたい考えです。ミュージアムショップで開発したグッズを、博物館の収入増にもつなげていけたらと思っています。

群馬県立歴史博物館 ミュージアムショップ

大澤さん ありがとうございます。私が個人的に持っているグッズもたくさんありました。面白いのは、地元企業の方が積極的に「埴輪でものづくりをしたい」と考えてくださっていることですね。それはなぜだと思いますか?

新井さん 群馬県内では、埴輪文化がけっこう浸透してきているからでしょうか。地銀さんからも、地元企業が「埴輪で何かできたら面白いな」なんて話をしているよ、というのも聞いています。

また、県内で発掘された埴輪の3Dデータを企業に提供して、自由に活用していただけるようにもしています。ただ、現状はお問い合わせがあった方への提供のみなので、今後はHPで公開するなどもできればいいなと思っています。

大澤さん 企業にとって「博物館と協力することのメリット」が明確なんですね。成功事例もたくさんありますし、円筒埴輪という活用しやすい素材を3Dデータで提供してもらえますから。今後、地元企業などとのコラボを考えている計画事業者さんは、ミュージアムと組むことのメリットを発信していくことも必要かもしれませんね。

総括

大澤さん 今回のように、ほかの計画事業者さんの事例を見たり、お話を聞いたりすること自体がすごく貴重なことです。もし興味を持ったところがありましたら、ぜひコンタクトを取ってください。交流し合いながらブラッシュアップしていくのもいいと思います。

前例がない中でものづくりをしていくのは本当に大変なことですし、クリアしなければならない大きな壁があると思います。もで、その壁がきっとミュージアムグッズの宝物になります。焦らずに一歩ずつみんなで乗り越えていきましょう。第二回のワークショップも開催しますので、ぜひご参加ください。