創造的なミュージアムグッズは、工夫を凝らしたコミュニケーションから(後編)
「ミュージアムグッズとしてオリジナルグッズを作りたいが、どうしたらいいのだろう」。博物館の担当者からこのようなお悩みが私の元に寄せられることがある。
オリジナルグッズとは、博物館の財産を生かし博物館が独自に開発した
ミュージアムグッズを指し、博物館のロゴや建築、収蔵品などをモチーフにしている。コンセプトは理解していても、実際に何をどうやって作ればよいのか困っている事例が見受けられるのだ。
前回は、文化観光におけるミュージアムグッズの必要性をお話ししたが、本稿では、オリジナルグッズの性質を踏まえながら、博物館の組織の在り方やコミュニケーションについて検討していく。
1. 館内の他スタッフとの連携
オリジナルグッズの作り手は博物館によって様々だ。学芸員や総務課などのスタッフが開発することもあれば、ミュージアムショップの運営を受託しているスタッフの場合もある。取引のあるデザイナーなどの力を借りることもあるだろう。
筆者はオリジナルグッズを開発するということは、博物館の本質をとらえることにつながると考えている。どのような作り手であっても、オリジナルグッズが博物館の財産を活用するという性質上、博物館のミッションやコレクションの特性を把握していなければ、「ここでしか手に入らないグッズ」を開発するのは困難だからだ。
そしてオリジナルグッズの開発こそ、組織内の垣根を超えたコミュニケーションが求められる。博物館の組織が縦割りであるなど、学芸員や教育普及などの専門スタッフと事務方を担うスタッフで交流があまり無いケースを多く耳にする。しかし、組織内で博物館の財産に対するアプローチが職種によって様々であるからこそ、「自分が把握していなかった博物館の財産」を他のスタッフが抱えていることは十分に考えられる。他のスタッフとの交流から、新たな財産の存在が明らかになりアイデアが浮かぶ可能性がある。
2.ミュージアムグッズ開発から見える組織の在り方
ここで、拙著『ミュージアムグッズのチカラ』(国書刊行会、2021年)の取材を通じて学んだ事例を紹介する。
大阪市立自然史博物館(大阪府):グッズ会議ではなく学芸員と立ち話
大阪市立自然史博物館のミュージアムショップは、認定NPO法人大阪自然史センター(以下:はくラボ)が契約に基づき運営している。はくラボは博物館と連携した友の会事業、普及教育事業、出版事業、他館の指定管理運営、自然環境保全に関する調査・研究も手掛けているため、スタッフの自然に対する足並みが博物館と揃っているのも特徴である。まさに博物館にとっては貴重なパートナーと言えるであろう。
ショップ自体にファンが根付いており、一時入札で営業権を獲得した他社では来館者の要望を満たせなかったようだ。ミュージアムショップが来館者の満足度に影響を与えるという、大阪市立自然史博物館の調査結果も発表されている。
その濃厚な魅力を発するグッズはどのようなコラボレーションから生み出されるのか。取材の際に「普段から学芸員の皆さんとコミュニケーションをとっているので、職種を超えた仲間意識のようなものが背景にあるのかもしれません」と担当者からお話を伺った。はくラボの活動する部屋の廊下には、開発中のオリジナルグッズの資料が貼りだされ、通りがかる博物館のスタッフはいつでも状況が把握できるようになっている。企画展に合わせて開発するオリジナルグッズも、その廊下での学芸員との立ち話で生まれることが多いという。
また、はくラボ側も館内の情報を常にチェックしている。新型コロナウイルスの影響下ではくラボが経営難に陥った際、支援グッズとして開発した「緊急!はくラボ応援グッズ ステッカー/蓄光バッジ「OMNH的アマビエ」」のアイデアも、学芸員の石田惣氏のSNSでのつぶやきがデザインの元になっている。組織の垣根を超えた常日頃からの交流と情報収集で、魅力的なミュージアムグッズを開発しているのだ。
そして、大阪市立自然史博物館のミュージアムショップ運営で特筆すべきは、博物館からミュージアムショップの事業者へ求める必要事項が書かれた、「運営業務仕様書」「特記仕様書」の存在である。この内容を見ると、商品は常時500アイテム以上の販売が必要で、そのうちオリジナルグッズが30アイテム以上を占めなくてはならず、書籍も常時1,000タイトル以上販売していなくてはならない。この条件を満たしているかが厳しくチェックされ、新しいミュージアムグッズを作成したり、仕入れて販売する際も、学術的な正確性を備えているものか、博物館の方向性にマッチしているかが審査される。
取材では「博物館側は私たちの''目利きの力''を信じてくれているし、学芸員さんも出張先の博物館で発見した素敵なミュージアムグッズを、私たちに紹介してくれるのです」という言葉も聞いた。ミュージアムショップを博物館の一部と捉えているからこその対応であり、博物館と一丸となってミュージアムショップの運営やミュージアムグッズ開発に取り組んでいる姿が伝わる。
3.良きコミュニケーション、良き組織も博物館の財産
上記の事例のように、私が素敵だと思うミュージアムショップ、ミュージアムグッズは、博物館の組織の在り方や、他職種の職員とのコミュニケーションの在り方に工夫が見られる。先ほど挙げた博物館の「財産」の中に「工夫を凝らした組織やコミュニケーション」を入れてもよいだろう。人間同士の創造的な関係性の在り方が、創造的なミュージアムグッズを生むと言っても過言ではない。
もし、この記事を読んでいるオリジナルグッズ開発の作り手の方がいたら、ぜひ積極的に他スタッフと交流を図り、コミュニケーションの取り方を工夫してみてはどうだろうか。
あなたは目の前の学芸員の専門分野は何か知っているだろうか。教育普及のスタッフが製作したワークシートの工夫を把握しているだろうか。案内スタッフが見つめる来館者のリアルな姿を知っているだろうか。まずはそこから、始めてみてはいかがだろう。
文化観光コーチングチーム「HIRAKU」専門家
大澤夏美(ミュージアムグッズ愛好家)