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人と自然と機械が紡ぐ文化

カシャーン、カシャーン、カシャーン、カシャーン、
カシャーン、カシャーン、カシャーン、カシャーン!

その空間に足を踏みいれた者は皆、絶え間なく鳴り響く力強い音に圧倒されるに違いない。会話さえままならない、爆音と呼んでも差支えない音量。けれども、その音色はどこか柔らかく、懐かしささえ感じさせる。
 
何代も受け継がれた機械は、まるで見慣れない生き物のような動きを繰り返しながら、色とりどりの美しい布を織りあげてゆく。金属特有の重たい音が、木造の古いアトリエに共鳴し、工業的な騒音とは一線を画する心地良ささえ生み出しているのかもしれない。時代を経た織機特有の低速のリズムにも、人間の身体感覚に訴えかける何かが在る。「なんて魅力的な!」。気が付くと、そう呟いていた。

伝統工芸「会津木綿」の魅力

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夏は暑く、冬は極寒。盆地特有の自然に育まれた伝統工芸品である会津木綿のアトリエ「はらっぱ」さんを訪問することになった時には、伝統を活かした現代的な商品企画の好事例を拝見できる、という認識をしていただけだった。

固く糊付けした経糸に横糸を織り込んでゆく会津木綿の特徴といえば、生地が空気を含むことで生まれる厚みのあるふっくらした質感だ。吸湿力が高く、かつ温かく、自宅で遠慮なく洗える丈夫さも相まって、スカーフ1枚でもあれば重宝する。素朴な柄行も、モダニズムに通じる要素を感じさせ、若い人たちのライフスタイルに自然に寄り添うことができそうだ。工芸品としてはもちろん、時代の空気と共鳴する優れたデザイナーと協働すれば、それはそれは魅力的な商品が生まれるに違いない。

期待を抱く一方で、製造プロセスそのものにこんなに魅了されるとは、実は予想だにしていなかった。理由は簡単。「機械織りの魅力を知らなかったから」だ。

伝統「産業」という宝箱

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仕事柄、私は、陶芸や漆芸はもちろん、備長炭の炭焼きや刀鍛冶など、様々な職人の手仕事の現場を訪問したことがある。そして、そんな経験から得た感動のあまり、大量生産に対峙するものとしての「手仕事」だけにフォーカスしてしまっていたような気がする。

今となっては、たいへんお恥ずかしい「見落とし」だと言わざるを得ない。が、意外に多くの現代人が同じような認識のバイアスを無意識にもってしまっているのではないか。つくづくモノづくりというのは、本質として何が起こっているのか、現場を見てみないことにはわかりにくいものだ。当事者ですら意識していない魅力が隠れていることも多い。文化を軸とした観光や地域振興を考える際には、常に「宝探し」の観点が必要かもしれないと思う。

今回、会津で私が見たのは、今はもう、部品の入手すら困難となった、文化財のような織機を丁寧にメンテナンスしながら受け継ぎ、まるで機械と対話するかのように阿吽の呼吸でともに働く職人たち。一度は途絶えてしまった技術の復活を目指しつつも、新たな着地点を目指す経営者。歴史に学び、先を見つめる人々が、先人から受け継いだ道具、そして地元の自然とともに創る未来の姿だ。

つまり、変えるべきは変え、守るべきは守ること。すべての鍵は、そのなかにあるように思えてならない。

※記事中の写真は「はらっぱ」にて撮影。

文化観光コーチングチーム「HIRAKU」コーチ
生駒尚美(プロデューサー/キュレーター)

<プロフィール>
1987年より、旧・セゾングループの文化担当。文化施設の企画・運営、ならびに芸術助成事業に専従した後、2003年に独立。数多くの文化芸術系企画に関わるかたわら、クリエイターや企業のイメージ戦略上のコンサルティングなども行う。一方で、「五感の開花」や「幸福感」をテーマに、多数のエッセイやコラムも執筆。著書に『美しき絆のビジネス~仕事で幸せになる秘訣~』(繊研新聞社)他。日本アートマネジメント学会正会員。一般社団法人シンクネイチャーアーツ&デザイン代表。