見出し画像

<第4回>ワークショップ「地域の人にひらかれたミュージアムをつくろう」開催レポート(後編)

2022年12月16日、第4回ワークショップ「地域の人にひらかれたミュージアムをつくろう」がオンラインにて開催されました。前編に続き、NPO法人大阪自然史センター職員の西澤真樹子(にしざわ まきこ)さんと、地域と連携した取組を行うミュージアムにご登壇いただきました。また、事業計画者からの質問コーナーも実施しました。

西澤真樹子さんプロフィール
千葉県出身。NPO法人大阪市自然史センター職員、大阪市立自然史博物館外来研究員、標本作成サークル「なにわホネホネ団」団長を兼任。大学で博物館学を学んだ後、絵本美術館で農業体験や野外展示制作を担当。2011年からは東日本大震災で被害を受けた博物館支援にも取り組んでいる。

ミュージアムによる取組の紹介

八尾市立しおんじやま古墳学習館(館長・福田さん)


八尾市しおんじやま古墳学習館

福田さん 当館は国指定史跡である心合寺山(しおんじやま)古墳を紹介する施設です。古墳自体はとても広いのですが、2005年の4月に開館した古墳学習館は、全体で400㎡、展示室も150㎡と、非常に小さい施設になります。

館の運営は、私が代表を務めるNPO法人、楽古(らっこ)が行っていますが、通常2~3名体制で人員も少ないため、当館だけでできることは限られています。そこで私たちは、館外の事業者とのコラボレーションにより、館と地域の魅力を向上させてきました。今日はその事業についてご紹介します。

地域事業者との連携によって、文化と観光の価値をつくる

一つ目は「セスナ機で見る大阪の巨大古墳体験ツアー」です。八尾市にある「八尾空港」からセスナ機に乗り、大阪の世界遺産、百舌鳥・古市古墳群(もず・ふるいちこふんぐん)を上空から眺めます。その後、「古墳懐石弁当」を味わい、心合寺山古墳と当学習館を見学するという流れです。

セスナ機で見る大阪の巨大古墳体験ツアー

このツアーをやろうと決めたのは、市役所の人と雑談をしているときでした。もともと構想はあったので、「誰かやってくれる事業者はいないか」と話していたところ、「楽古(らっこ)さんがやればいい」といわれ、挑戦することに決めました。

市役所から地元の旅行会社を紹介してもらい、2012年からツアーをスタート。2020年の2月まで12回実施して、売上は370万円ほどになりました。

この取組によって、八尾に観光に来てくれる人が増えました。こういうツアーがなければ、なかなか「八尾に行ってみよう」とは思わないですよね。東京から新幹線で来てくれる人も出てきたというのは、ツアーの大きな成果だと思います。さらに、八尾空港もおしゃれなショップやカフェができるなど、開かれた場所になりました

二つ目は、ツアーのお昼ごはん「古墳懐石弁当」です。これは、地元の懐石料理店、「佑和(ゆうわ)」さんが作ってくれています。佑和さんも、市役所の方につなげてもらいました。懐石料理のお店なのでハードルが高いかなと思っていましたが、会いに行くと、店長がすごく歴史好きな方で、「やりますよ!」と。そこからやり取りが始まって、一緒においしい弁当をつくりあげることができました。

古墳懐石弁当

三つめのコラボは、ミュージアムグッズです。

「古墳歯ブラシ」は、2017年から販売を開始しました。実は歯ブラシは八尾市の地場産業で、40%の全国シェアがあります。製造をお願いしている会社とは、八尾の街づくりイベントで知り合いました。こちらの会社には、館の夏休みイベントに招いて、歯ブラシづくりの実演もやっていただきました。こうした交流の場をつくってお互いの顔が見える関係になると、連携しやすくなると思います。

古墳歯ブラシ
「八尾市しおんじやま古墳学習館」で行われた歯ブラシづくりの実演

ミュージアムも、連携する事業者も、みんながハッピーになれる取組を

西澤さん ありがとうございます。福田さんの仕事を見ていると、常に誰かの得になることが織り込まれている気がします。相手もハッピーになることを考えているので、一緒にやりやすいのでしょうね。

福田さん そうですね。大阪には世界遺産の百舌鳥・古市古墳群もあるので、みんなで協力すれば、面で面白いことを広げていけます。うちの館にできることは、関わる人それぞれの立場を尊重し、全体を盛り上げていくことだと思っています。

西澤さん 八尾のように、観光のイメージが全くない地域で、観光の要素を盛り上げようとするときには、どんなことが大事だと思われますか?

福田さん そうですね。例えば、八尾市は町工場の街なので、素晴らしいノウハウを持っている人がたくさんいます。でも、その方たちと知り合いになれる機会はなかなかないので、市役所のように情報が集まる場所がつなげてくれるとありがたいですね。

この人とこの人が一緒にやったら面白いかもしれない」みたいな。実際、私たちのセスナ機ツアーも古墳懐石弁当も、それでつないでいただきました。そういうプラットフォームがあると、もっと面白いことができそうです。

計画事業者から西澤さんへの質問コーナー

大分県立美術館を中核とした大分県文化観光推進拠点計画(大分県芸術文化スポーツ振興課・池田さん)

大分県立美術館

池田さん 大分県では、「大分県立美術館を中核とした文化観光推進計画」を進めています。今回の拠点計画では、大分県立美術館のコレクションの中でも「竹工芸」と「現代アート」を二つの柱にしています。

大分には「別府竹細工」という伝統工芸品があるのですが、「大分県=竹」というイメージが、全国に浸透していないことが課題です。美術館には、全国でもトップクラスの竹工芸品がそろっていますが、それを見るために県立美術館まで足を運ぶという流れはできあがっていません。コーチのみなさんからは、館内に入ると同時に「竹」を感じられるような空間をつくりたい、という話も出ています。

また、別府や湯布院など、多くの観光客が訪れる場所と連携したいという考えもあります。その辺りのアドバイスをいただけるとありがたいです。

文化資源を地域の人に認知させていくには

西澤さん ありがとうございます。課題もあるようですが、逆に「これは成功している」といえる取組としては、どんなことがありますか?

池田さん 計画を進めるようになって、地元とは今までにないつながりが生まれています。企画展があるときは連携したバスツアーを行ったり、周辺ホテルが企画展をイメージしたメニューを提供したりもしています。
ただ、「竹」をテーマにした企画は思うようにはいっていません。大分の文化をさらに深く知りたいという客層に対してのアプローチがうまくいってないのだと思います。

西澤さん 竹に興味を持ってほしいと期待しているお客さまの年齢層はどれくらいですか?

池田さん 別府には、竹を使った現代アートを観光につなげてきたNPO団体があります。そこが開拓してきた新しいターゲット層が30~40代の女性なので、そのくらいの年齢層が良いと考えています。

西澤さん 私もまさにターゲットですね。私がお客さまの立場で竹に興味を持つとしたら、美術館で見られる高級な工芸品ではなく、「竹を身近で楽しめるもの」と認識したときだと思います。竹の作品を自分で作ったり、身近に置きたいと思える竹製品に出会ったりしたときに、興味の扉が開きます。

大分県立美術館

地域の事業者との連携で、新しく文化に触れる人を増やす

なので、先ほどのNPOさんに、一度「お客さまに響く竹イベントってどんなものでしょうか?」と、聞いてみてはどうでしょうか。NPOさんは、たぶんそういう情報をたくさんお持ちだと思いますから。

池田さん そうですね。実はもういろいろ話し合ってはいるのですが、10年以上、現代アートで活発な活動をされているNPO法人なので、彼らなりのプログラムができあがっているんですね。美術館が主催する竹のイベントとして、どういうものがいいのかは、もう少し議論をつくしたいと思っています。

西澤さん 先進的なイベントを美術館でやろうとするのは大変かもしれませんが、人は意外性に惹きつけられるものです。美術館という真面目なイメージがある空間で、斬新で面白い企画をやっていると、「私たちも参加できそう」と感じられるので、客層も広がると思います。これを機に、NPOさんと一緒に面白い企画をやってみてもいいのではないでしょうか。

また先ほど、竹を感じられる空間づくりのお話が出ましたが、これはとても大切です。「大分=竹」が浸透するように、NPOさんたちと協力して、ありとあらゆる動線に竹が置いてある状況をつくり出していかれると良いと思います。

館だけでなく、空港や駅など、大分の玄関口となっている場所や周辺の旅館やホテルにもご協力いただき、それぞれの場所に竹のアート作品の小さな展示コーナーをつくっていただくなど。そういうことも試してみてはいかがでしょうか。

明日香まるごと博物館(明日香村教育委員会・辰巳さん)

史跡「⾶⿃宮跡」

辰巳さん 奈良県にある明日香村の特徴は、地下に良好な状態で眠る遺跡で、文化観光拠点施設も全て遺跡としています。その遺跡を「まるごと博物館」として位置づけ、屋根のない「フィールドミュージアム」を展開しています。

計画事業の取組の一つに「伎楽(ぎがく)」の再現があります。「伎楽」とは、お面を付けた演者が音楽に合わせて舞う、古代の無言の仮面劇です。日本芸能のルーツの一つと言われていて、雅楽や能楽、獅子舞などにも影響を与えてきました。この「伎楽」が日本で最初に伝えられたのが、この明日香の地であるといわれています。

伎楽の上演想像図
(写真:奈良文化財研究所飛鳥資料館 提供)

この「伎楽」を明日香村の人たちで復興させることで、当時の飛鳥時代の空間を体験し、来訪者に楽しんでいただきたいと考えています。そこで2021年から、オリジナルの伎楽を再現するためのプロジェクトを始めました。

まず行ったのは、明日香村の住民に伎楽を知ってもらうためのワークショップです。天理大学の雅楽部さんを招き、総勢50名くらいの方に伎楽を舞っていただきました。また、2022年には小学校で伎楽の体験授業を実施。子どもたちから希望者を募り、放課後を利用して伎楽の練習を行っています。2023年の2月には、子どもたちの伎楽を披露するワークショップも開催する予定です。

とはいえ、村民への伎楽の周知がまだ不十分であることと、演者の確保がむずかしいという課題もあります。お面をかぶって演技をするのはハードルが高いと考える方も多いので、アドバイスをいただきたいと思っています。

西澤さん これから明日香村に伎楽団のようなものをつくられるイメージだと思いますが、演者を村民さんで結成したいというのは、理由はありますか?

辰巳さん やはり、最初はこの地域で盛り上がってほしいからです。実は、明日香村には飛鳥時代にあまり関心がない人もたくさんいます。この計画を通じて古代に興味を持っていただき、村全体が誇りを持っていろいろな活動ができるようになることを目指しています。

全国に門戸を開くことで、地域内も盛り上がっていく

西澤さん もしかすると、地域の人たちが関心を持つきっかけは、外の人の盛り上がりかもしれません。前編の横倉山自然の森博物館でも、越知町の人はあまりいませんでしたが、町外から来た人が盛り上がり、一つ形にされたことで、そのエネルギーに引き寄せられて中の人の評価も高まりつつあります。ですので、順番はどちらからでも良いのかなと思います。

そのためにも、演者は村内にこだわらず、外からも募集したらどうでしょうか。外から人が集まってくれば、「伎楽ってそんなに価値があるんだ」と、村の中の人たちも気づきますから。それと、子どもたちに伎楽を体験させたのには、どういう意図があったのでしょうか?

辰巳さん 伎楽は、百済からやってきた人たちが、最初に明日香村の子どもたちに教えたと伝えられています。それを再現したいと考えました。

西澤さん それはすごく印象に残るお話ですね。2023年のワークショップでお披露目があるということですから、その時はぜひ、「なぜ子どもが舞うのか」「なぜ明日香村で伎楽をやるのか」といった理由や背景を伝えてください。それを知ると、見ている人も納得できると思います。

子どもにも分かりやすいガイドは、多言語対応にも応用できる

さらに、「伎楽とは何か」「お面にはどういう意味があるのか」など、子どもでも簡単に分かるようなガイドを作るのが良いと思います。プリント一枚でもいいので、子ども向けに情報を精査したガイドをつくって、村民全員が「その紙に書いてあることくらいは知っている」という状況をつくり出せれば良いですね。

子ども向けに分かりやすく作ろうとすると、使える情報が限られるので文章が絞り込まれます。今後は、海外から来るお客さまのことも考えていかれると思いますが、多言語対応をしていく際にも、簡単な文章なら翻訳もしやすいので、便利だと思います。

総括

西澤さん お客さまに来てほしい、と思う前に「そもそもここで歓迎された気持ちになれるの?」かを見直してみましょう。

意外と味方は見えないところにいるかもしれません。自分たちの施設にはどんな資源があるか、さまざまな人が参加できる仕組みを試し、仲間を発掘し、外の人と話し合うことで魅力的なミュージアムの姿を見つけていけるといいですね。

八尾市立しおんじやま古墳学習館
https://racco-taiken.com/sionji/
大分県立美術館
https://www.opam.jp/
明日香村「世界⽂化遺産構成資産候補『⾶⿃宮跡』」
https://www.asukamura.jp/gyosei_bunkazai_shitei_10.html