<第2回>ワークショップ「ミュージアムグッズヒットの秘訣:愛される商品開発は何が違うのか?」開催レポート(前編)
2022年10月14日、第2回ワークショップ「ミュージアムグッズヒットの秘訣:愛される商品開発は何が違うのか?」がオンラインにて開催されました。前回ワークショップに続き、ミュージアムグッズ愛好家の大澤夏美さんをお招きし、話題のグッズを手がける博物館の方々にも登壇いただき、
人気商品の発表や愛される商品を開発する秘訣についてディスカッションを行いました。
基調講演「ミュージアムグッズは何のためにあるんだろう?」
大澤さん 今回は、「ミュージアムグッズは何のためにあるんだろう?」ということを、みなさんと考えたいと思います。
ミュージアムショップは、ただの売店ではありません。来館者にとっては博物館での思い出を持ち帰る場所であり、博物館にとっては館のミッションを伝え、ファンを増やす役割があります。ミュージアムショップは展示の延長だといわれることもありますね。
キラッと光るミュージアムグッズを生み出す秘訣は、「博物館の魅力を伝えること」と「グッズの特性を生かすこと」の掛け合わせにあると考えています。
「なんでこれを面白いと思ったんだろう?」「どんなところに感動したんだろう」という風に、自分で感じたことを深掘りしながら博物館の魅力を突き詰める。それを踏まえて「その魅力をグッズで伝えるにはどうすればいいか?」という風に考えていくと良いでしょう。
「イラストが得意」「アプリを作れる」などの自分の強みを生かしたり、地元の産業と組み合わせたり、季節や年中行事のグッズを取り入れたりしてもいいですね。
また、自分自身が欲しいと思うグッズや、「あの人ならこんなものを面白がってくれそう」など、ターゲットを想像しながら企画してみてください。
ということで、私のおすすめミュージアムグッズをご紹介します。
・WHAT MUSEUM(ワットミュージアム)のトートバッグとポーチ
トートバッグの「WHAT IS ARCHITECTURE(建築って何?)」という疑問へのアンサーがポーチに書かれています。答えは自分自身の中にあるということを気づかせてくれる素敵なグッズです。
・高尾ビジターセンター「ムササビの食痕ピンバッジ」
ムササビは、葉を折りたたんで食べる習性があるそうで、その食痕をピンバッジにしたアイテム。もし高尾山でこの形の葉を見つけることができたら、うれしくなっちゃいますね。ムササビ自体ではなく、山のお宝や生き物の気配を商品化したところが面白いです。
・ニフレル「ボードゲーム」
魚や動物など、生きものの飼育員である「キュレーター」のお仕事内容や、生き物たちの食生活をボードゲームで遊びながら学べます。昨今の「おうち需要」をしっかり捉えて作られたグッズであり、今とても売れているそうです。
・小牧野(こまきの)遺跡のマグカップ
ストーンサークルで有名な遺跡ですが、それをどうグッズに展開するかを考え抜き、シリコンの蓋とマグカップにたどり着いたそうです。マグカップの側面には、遺跡でどんな遺物が出土するのか、地中にどんな状態で埋まっていたのかが描かれています。
・「PLAY! PARK」のワークショップ
複合文化施設「PLAY!」は、美術館の「MUSEUM」と、子どもの遊び場の「PARK」の2つのフロアがあります。「PARK」で体験できるワークショップの1つとして、描いた絵を使ってトートバッグや缶バッジを作ったり、制作した木のオブジェでキーホルダーを作れるプログラムがあります。家族とのおでかけの思い出をずっと残しておける楽しいグッズです。
登壇者によるミュージアムグッズの紹介とディスカッション
堺市博物館(堺市文化観光局・黒見さん、学芸員・橘さん)
橘さん 当館は令和元年に世界遺産に登録された「百舌鳥古墳群」のすぐそばにある博物館です。そのため、古墳や埴輪関係のグッズをいくつか開発しています。
・犬形埴輪グッズ
犬形埴輪は可愛い形をしているためよく売れているシリーズです。特にキーホルダーは最も人気の高い商品。ハンドタオルの販売も盛況でした。
・百舌鳥古墳群下敷き
「100円ショップにも売っている下敷きが400円で売れるのか?」という意見もありましたが、結果的に多くの方にご購入いただきました。裏面に好みの古墳を選べるフローチャートがついています。
・円筒埴輪メモ
円筒埴輪は、置かれた古墳によってそれぞれ違う特徴を持っています。それを知ってもらうために作ったグッズです。メモを丸めて立てると円筒埴輪の形になります。私のイチオシでしたが、あまり売れていません…。その理由についてご意見をいただければと思います。
・手ぬぐい お散歩博物館
手ぬぐいは「注染」という技法を用いた堺市の伝統産業とのコラボレーションで制作しています。古墳デザインの手ぬぐいはよく売れているのですが、博物館の展示場をイラストにした「お散歩手ぬぐい」は、そこまで人気がありません…。どうしたら魅力が伝わるか、悩んでいます。
外部団体との連携事業
当館では、魅力的なグッズを作るため、大学等と連携した取組みも行っています。関西大学とは「堺市博物館ミュージアムグッズ販売促進」をテーマにしたワークショップを実施し、学生さんからたくさんのアイデアをいただきました。また「八尾市立しおんじやま古墳学習館」が主催した「ミュージアムグッズ探検隊」にもお越しいただき、グッズの意見交換を行いました。
黒見さん こういう取り組みができると、学生さんが館に足を運ぶきっかけにもなりますし、館が発信したいことを丁寧に伝えられるチャンスにもなります。「地域と一緒にフィールドワークなどをやりたい」と希望している学校も多いので、連携を考えている館は、思い切って近くの学校に問い合わせてみることをおすすめします。
大澤さん 素敵なグッズがたくさんありましたが、お悩みもありましたね。まずは、円筒埴輪のメモ帳の売れ行きですね。先ほどの「円筒埴輪は古墳によって特徴に違いがある」という話に、私はグッときました。「円筒埴輪はどれも同じでしょ?」と思い込んでいる人も多いと思うので、そこの違いはしっかり伝えた方がいいと思います。
展示室に円筒埴輪の違いを教えるスペースをつくったり、展示室にこのメモを立てて、「こちらはミュージアムショップで買えます」というPOPを置いてみたりするのはいかがでしょうか。先ほど、ミュージアムショップは展示室の延長だというお話をしましたが、展示室とミュージアムショップに伝えたいことの連続性があると、すごくいいと思います。
大澤さん 「お散歩手ぬぐい」も、展示室自体をデザインしていることが分かるように販売することが大事だと思います。例えば、手ぬぐいのイラストを紙のマップに起こして使ってみるとか、職員さんが手ぬぐいを使って場所を案内するのもいいかもしれません。
来館者の目線に立って、情報は多すぎるくらい出してしまってもいいと思います。そのマインドのもとで売り方を工夫してみてください。グッズ自体はとても素敵ですから。
大澤さん また、大学との連携も素敵な取り組みですね。
橘さん はい。歴史や文化を専攻している学生さんではなかったので、最初は「むずかしそう」というイメージを持っていたようです。でも、実際に来館してもらうと「けっこう面白い!」「こんなことができるかも」など、いろいろ意見が出てくるようになりました。若い人に博物館を知ってもらう一つの手段にもなったと思います。
大澤さん ミュージアムショップやグッズは、いろいろな人と博物館をつなげる接点にもなるんですよね。
(後半につづく)